ふたりきりの食卓

「ぷっ……なに、その顔」

 

「なにって」

 

「子供がオシッコ我慢してるみたいな、情けない顔してるよ」

 

「お、おしっこ、じゃないです」

 

「なんで、そんなに赤くなってるの?」

 

からかわれてるってことはわかってたけど、僕は、そんなにイヤな気はしなかった。

 

「夕飯、食べて行ってよね」

 

「でも、拓哉兄さん、遅いんでしょう?」

 

「そうなのよ。せっかく作った三人分の食事がもったいないから、ちゃんと食べて帰ってね」

 

「はい、そうします」

 

トマトソースのロールキャベツは、ごく普通のロールキャベツだった。

 

美由紀さんの料理にしては、これはとても珍しいことだ。

 

「おいしい?」

 

「はい、すごく普通においしいです」

 

「それ、どういう意味なの?」

 

「あ、いや、その……ひょっとして、キャベツのなかから思いがけないものが出てくるのかと思ったんだけど、普通にひき肉でした」

 

「ほんっとは、なにが言いたいのかなあ」

 

「その、えっと、つまりぃ、おいしいってことです」

 

美由紀さんとふたりきりの食卓で、緊張してる僕は、なんとか緊張を隠そうとしていた。

 

「ごちそうさまでした。それじゃあ、帰ります」

 

「食べたらすぐに帰るなんて、失礼よ」

 

「でも……」

 

このまま、いつまでもふたりきりでいることには耐えられないよ、美由紀さん。

 

先週の、あの公園でのこと、忘れたわけじゃないんでしょう?

 

僕は、毎日思い出しては、ひとりで……。

 

「拓哉さん、帰りが遅くなるって言ったでしょ」

 

ど、どういう意味ですか?

 

「続き、しよ」

 

「つ、つ、つづきって……」